最近のイタリア政治をざっくり解説

最近のイタリア政治をざっくり解説

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・決まらないイタリア

 イタリア現代政治を見る上で重要なのは政変が起きやすい議会制度とEUという縛りだ。イタリア現代政治は1993年のマーストリヒト条約によってその可能性をおおまかに決められたということは間違いない。EUの特徴である通貨統合こそ現在のイタリア政治が安定しない要因の一つである。イタリアは第二次世界大戦をムッソリーニという独裁者の指導の下、戦い敗戦。その後、欧州統合の担い手の一国として今日を迎えた。独裁者を経験したイタリアはムッソリーニを首相に指名した王政を疑い国民投票で廃止。その後、権限が割と強い象徴大統領制となり複雑な政治枠組みの中で政治が行われている。イタリア政治の特徴は短命内閣だ。定期的に政治不信が高まり、社会不安が強まるイタリアでは政権が2年続けばいい方である。これらも全て特権化した議会と各種業界の癒着、政情不安の起こりやすい制度が要因である。

 ここでさらにイタリアはEUに参加し通貨統合してユーロに通貨を変更したことで独自の金融政策ができなくなり、経済政策はEUの影響を受けるようになったことで景気が低迷し、90年代以降の内閣は常にこの経済という課題と向き合う必要に迫られ、欧州の巨大なお荷物としてイタリアは苦しんでいる。

 通貨統合がイタリアの政情不安を加速させた理由は独自の金融政策をとれなくなったからだ。通貨の価値が比較的安いことが多かったイタリア・リラは貿易や観光を主軸産業とするイタリアにとって最適だったが通貨統合によってユーロに変更、イタリア・リラと比べて価値が高いユーロはイタリアの主軸産業に大きな打撃を与えた。さらに独自通貨の場合は中央銀行の介入によってその価値を操作できるが、ユーロは欧州全体の統合通貨であるためにそれができない。こうしてイタリアは為替介入もできずもがくことしかできない中で現在を迎えることになってしまった。

 このためイタリア政治においてEUに懐疑的な政党、国民は相当数存在している。イタリア政治を見る時にはその党のイデオロギーだけでなく、親EUか反EUかも重要なところなのだ。

・ 懐疑派の躍進

 ここ30年で最もイタリア政治に風をふかしてきたのはシルヴィオ・ベルルスコーニである。彼は中道右派政党「フォルツァ・イタリア」を結党し何度も政権を担当してきた実力者だ。彼もEUの中にありながらEUに対して懐疑的な発言を残している。基本イタリアの右派政党はEUに対して懐疑的な傾向が多い。一方の中道左派政党(でも系譜は共産系)はEUと協調姿勢であることが多く、レンツィ元首相などは代表的だろう。頼れるときは全力で頼り、それ以外の時は文句をつけるという関係がイタリアとEUの関係と考えてもらえばいい。中道左派は文句を言わないに近い、中道右派や最近出てきたポピュリスト政党は文句を言うだけでなく、EU離脱まで主張する場合がある。

 ベルルスコーニ政権の後に中道左派の民主党政権が続く。その途中でリーマンショックや欧州債務危機が発生しイタリアは欧州第三位の経済大国として経験した。EUが規定する財政赤字規律によって財政赤字の規模を決められているイタリアはそれ以上の赤字が出来ず、緊縮財政を行わざるを得ないため世界不況のなかにおける緊縮政策はポピュリズム政党の躍進を生み出した。

・既成政党からポピュリズム政党へ

 長きにわたる既成政党への不信と期待感を強める新興政党(ポピュリズム政党)の構図は2018年の議会選挙でポピュリズム政党の勝利を生み出した。EU協調路線の民主党系が退潮し、懐疑派の右派連合と反緊縮政策を掲げる五つ星運動が躍進。議会で主導権を握ることになる。議席数では一番の五つ星運動だが、会派で見ると右派連合が多いさらに右派連合で最も議席を獲得しているのが同盟という極右扱いされている政党だ。この構図によって誰が総理になるか組閣はどうするのかということで調整が続き、結果間を取り持つように首相を外部の専門家が各大臣ポストを連立する政党で分けるというテクノクラート内閣が成立した。これがコンテ内閣だ。コンテ氏は法学者であり非政治家である。これを反緊縮、反EUで一致する同盟を中心とした右派連合と五つ星運動が支える形になった。EUに対するイタリア国民の不満が如実に現れた結果となったのである。

・サルヴィーニの乱

 しかし、部分的に政策は一致するものの、イデオロギーに差がある同盟と五つ星運動は細かい政策で対立し、2019年同盟の党首サルヴィーニ氏が政権内で蜂起。連立は解消しコンテ内閣は退陣の可能性もある状態に陥った。サルヴィーニ氏は早期選挙を訴えて連立を去った。これは自らの実施したい政策ができないからもう一回選挙をやって同盟の議席を増やそうと画策したもので、議会内から批判された。コンテ内閣は政権続投のために改めて連立協議を行い、民主党系と連立を組み第二次コンテ内閣が誕生することになる。

・コロナとコンテ内閣退陣

 イタリアはコロナで甚大な傷を負った。主軸産業である貿易も観光も封じられ、感染症対策もうまくいかず多数の死者が出ている。コロナ以前にコンテ内閣は所得制限付きの定額給付金政策の実現にこぎつけており貧困層への対策は多少できていたが、コロナによって財政規模が拡大、民主党系との連立によってEU協調路線になったものの財政赤字規律に悩まされ行政運営に暗雲が立ち込めていた中でのコロナである。コンテ政権は未曾有の細菌災害の対策に追われつつもEUのコロナ支援金の獲得と経済再建に意識を向けていた。しかし、コロナ基金をどれくらいEUから獲得するのかそしてその使い道をめぐり連立内で対立。レンツィ元首相が率いる少数政党が連立を離脱し不信任案を提出した。不信任案は否決されたものの、議会運営において重要な絶対安定多数(政権が安定するための絶対数)を獲得できなかったことを理由にコンテ氏は再び連立交渉に入るも、うまくいかず遂に辞任。コロナという危機の中でイタリア政治は新たなリーダーを迎える必要に迫られた。

・マリオ・ドラギ内閣の誕生とこれから

 首相任命権を持つマッタレッラ大統領は安定した政府の成立の望みをかけて2019年にECB(欧州中央銀行)の総裁を退任したマリオ・ドラギ氏を指名した。マリオ・ドラギ氏は世界銀行やECBでの経験はもちろんのこと政治や経済にも見識のある人望のある人物だ。マリオ・ドラギ氏は指名を受けて組閣協議を始めた。ECB元総裁という経験からEUやECBとの関係も深く、既成政党議員との面識も十分にあるため、今のイタリア政治のまとめやくとして適任だという認識から一部から「マリオ・マジック」なる金融への期待感が強めるといった見方まで出た。ドラギ内閣の面々を見ると、議会における議席数順に大臣ポストが割り振られ、まさに大連立といった感じだ。この内閣の下では反EUの素振りは見せづらく、議会政治もドラギを中心として既成政党側が主導権を握っていくのではと推測される。きっとコロナが落ち着き、ドラギ氏が去るとまた親EU、反EUの戦いが始まるのだろうが、現在の危機の環境においては頼れるものに頼り、なすべきことをなすというイタリアのための一致が各政党で見られただけでもドラギ内閣が果たした役目はすでに大きいとも見える。

ドラギ新内閣が正式発足へ、幅広い政党から閣僚を選出(Jetro)

https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/02/01d6714f12327d9c.html

コロナ、経済対策に尽力 ドラギ伊首相が所信表明(時事通信)

https://www.jiji.com/jc/article?k=2021021701247&g=int

Polimos代表 オカソ

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